仙台高等裁判所秋田支部 平成11年(ネ)101号 判決 2000年10月04日
控訴人(原告) X
右訴訟代理人弁護士 白澤恒一
被控訴人(被告) ワールド日栄証券株式会社
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 佐藤博史
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴人の申立て
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、9,896万9,847円及びこれに対する平成9年8月19日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 事案の概要
本件は、被控訴人から外貨建ワラントを買い受けた控訴人が、外貨建ワラントの取引は、目的物たるワラントが存在したとは言えないから原始的不能であり、また、いわば賭博行為に当たるものとして公序良俗違反であるから、いずれにしても無効であり、そうでないとしても、ワラントが不特定で引渡しがあったとはいえないから債務不履行により契約を解除したとして、取引による差損金の支払を請求した事案である。その概要は、当審における主張を次のとおり付加し、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の6頁1行目から7行目までの括弧書きを削除し、15頁末行の「選択的に」の後に「大券が保管されているユーロクリアの所在地であるベルギー国の」と挿入するほか、右事案の概要記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
1 ワラントの取引が有効であるためには、商法341条ノ14により一件一件の取引についてワラントの引渡し(交付)が認定されることが必要である。ワラントは無記名証券であるから種類物であり、引渡しがあったとされるためにはその特定が必要である。国内ワラントについては証券の記号番号を顧客台帳に記載し特定した上で引渡しをしており、外貨建ワラントについても同様の手続が必要である。ワラントには株券等の保管及び振替に関する法律(以下「株券保管振替法」という。)の適用はない。本件では引渡しがなく、全取引は履行不能となっている。
2 本件はワラントという有価証券の売買であり、大券の共有持分の売買ではないから、大券の共有持分の引渡しがあっても売買の対象物の引渡しにはならない。混蔵寄託とするにも、寄託するためにはいったん目的物が控訴人に引き渡される必要がある。
(被控訴人の反論)
本件ワラントの引渡しは、大券の持分の指図による占有移転または簡易の引渡しによっている。ワラントの特定は大券についてされている。控訴人は、売買の対象を個別・独立の新株引受権証券に限定するかのようであるが、個別・独立の新株引受権証券の所有又は占有の移転と、大券の持分又は占有持分の移転とは、法的には全く同一・同価値である。国内ワラントの個別のワラント証券も保護預りにおいては混蔵寄託されており、返還は証券の記号・番号に関わりなく同種・同量のワラント証券によっていて、結局外貨建ワラントの大券の持分の移転と実質はほとんど同じである。また、外貨建ワラント証券の交付が国内ワラントと同じ方法でなければ有効とならないとする根拠はない。
三 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきと考える。その理由は、原判決19頁7行目に「一三条三号」とあるのを「一三条(2)」に改め、20頁末行に「六九」とあるのを削除し、21頁1行目に「九八ないし一〇一の各一・二」とあるのを「九八の一・二、九九の一ないし三、一〇〇、一〇一の各一・二」と、同頁3行目の「一〇八の一」を「一〇八の一・二」と、「一一三ないし一一五」とあるのを「一一三、一一四、一一五の一・二」と、同頁4行目の「一二一の二」を「一二一の一・二」と、22頁4行目に「二三八の二」とあるのを「二三八の一・二」と、同頁6行目に「二六七の二、二六八の二、二六九の一・二」を「二六七ないし二六九の一・二」とそれぞれ改め、32頁6行目の「むしろ」から34頁3行目までを削除し、当審における控訴人の主張に対する判断を次に付加するほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」説示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における主張について)
控訴人の主張は、本件ワラント取引はワラントを表章する新株引受権証券という有価証券の所有権の移転を目的とするものであり、また、商法341条ノ14によりワラントの移転にはこれを表章する新株引受権証券の交付が必要であることを理由に、ワラントの売買は個別・独立の新株引受権証券についてのみ行われるべきであるとするものと解される。しかし、新株引受権証券も所有の対象である以上、これを共有し、その持分の移転を行うことには何も支障はないはずであり、これが許されないと解すべき法令上の根拠は見当たらない。そして、証券の交付には、現実の引渡しだけでなく、指図による占有移転、占有改定及び簡易の引渡しが含まれることに異論はない。寄託の際の占有の移転についても同様である。本件では、発行された新株引受権証券が一枚の大券であり、証券の特定は大券によってされており、控訴人に対する持分の移転は、外国証券取引口座設定約諾書による合意に基づき、占有改定(預り証の交付等)によって大券についての間接・共同占有が移転されたものと解される。
これに対し、控訴人は、個別・独立の有価証券の引渡しをしないで有価証券について権利の移転を行うためには、株券保管振替法のような立法が必要であるとの前提に立っている。しかし、株券保管振替制度は、株券保管振替法によって初めて実現されたものではなく、それまでに行われてきた株券保管振替制度のいっそうの普及・定着を図る必要から立法されたものであり、同法制定後も、東京証券取引所に上場されている外国証券については、同法によらず、証券の混蔵寄託とこれに対する共有持分の移転という法律構成により取引が行われており、国債についても、日本銀行を中心にして同様の法律構成に基づいて取引が行われていることが認められる(乙58)。
原判決認定の事実によれば、控訴人は、本件ワラントの大半について反対売買による決済をしているのであり、結果として差損金が発生したことが意に沿わないだけであって、取引自体は有効とするのがその意思に沿うものである。控訴人は、全ての約款を承認の上で本件取引を行ったのであり、本件取引において、ワラントの引渡しを控訴人主張のように個別・独立の証券の交付に限定することによって控訴人のために保護すべき利益は存在しない。
四 結論
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野貞夫 裁判官 佐藤道明 齋藤大巳)